「即戦力」を作業の経験で選ぶと、AIに置き換わる力に給料を払うことになります
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「即戦力」を作業の経験で選ぶと、AIに置き換わる力に給料を払うことになります

中途採用で「即戦力」を求めるとき、まず確かめるのは同じ仕事の経験です。経理なら仕訳や照合をどれだけやってきたか、営業なら見積書や提案書をどれだけ作ってきたか。しかしこうした作業は、AIに置き換わるのが最も速い部分であり、月額数千円で手に入るものになりつつあります。作業の経験で人を選ぶと、これから値下がりする側の力に、年収という長期の固定費を払うことになります。採用で見るべきものは、AIで代わりの利かない側へ移っています。曖昧な状況で決める力、顧客と関係を築く力、自分の仕事を言葉にする力、そして学び直しの速さです。本稿では、なぜこの移動が起きるのかを労働経済学の代表的な研究から確かめ、明日の面接でそのまま使える質問に落とします。

はじめに、本稿の守備範囲を一つはっきりさせます。別稿で「AI人材は採るより育てるほうが早い」と論じましたが、あれはAI推進役という特別な役割を誰に担わせるかの話でした。本稿が扱うのは、営業、経理、総務といったふつうの職種を採るとき、「即戦力」を何で測るかという、すべての採用に関わる話です。

自動化はタスク単位で進み、残ったタスクの価値を押し上げます

労働経済学者デヴィッド・オーターは、2015年の論文「Why Are There Still So Many Jobs?」で、古くからの疑問に答えました。機械化が二百年続いたのに、なぜ仕事はなくならないのか。答えの核心は、自動化が職業を丸ごと消すのではなく、職業を構成するタスクの一部だけを置き換える、という観察にあります。そして大事なのはその先です。機械に渡ったタスクの周りで、人に残ったタスクの需要と価値はむしろ上がります。オーターはこの働きを「補完」と呼び、世の議論は機械による代替を誇張し、補完の効果を見落としがちだと指摘しました。

経理を例に取ります。仕訳の入力が自動化されても、経理という職業は消えません。中身が入れ替わります。転記や照合が機械へ移り、資金繰りの見立てや、数字の意味を経営に説明する仕事の比重が増します。そして後者ができる人の値打ちは、自動化の前より上がるのです。

同じ入れ替わりは、職種を問わず進みます。営業では見積書の作成が機械へ移り、顧客の言外の要望を聞き取る仕事が残ります。管理部門では契約書の一次チェックが機械へ移り、例外条項をのむかどうかの判断が残ります。どの職種でも、残る側は似た顔をしています。

これを採用に引き直すと、こうなります。募集している職種そのものは残ります。しかしその職種の中で、どのタスクが人に残るかは数年単位で入れ替わります。作業スキルで「即戦力」を測る採用は、この入れ替わりの機械側、つまりこれから値下がりする側の能力に、年収という長期の固定費を約束する行為です。

生成AIは、この入れ替えの速度を一段上げました。整った文書、見栄えのする資料、表計算の関数——これらは既にAIが及第点を出す領域です。与信の下調べ、契約書の一次チェック、見積書の下書きも同じ方向へ動いています。一方で、AIの出力を顧客の事情に照らして採否を決める判断、こじれた相手との関係を立て直す対話、自分の仕事を手順として言葉にする力は、値下がりしていません。むしろAIを使いこなすための前提条件として、価値が上がっています。

面接は「作業の実演」ではなく「残る側の証拠集め」に使います

では、面接で何を聞くか。作業スキルの確認に使っていた時間を、残る側の能力の証拠集めに置き換えます。私はこれを「残る側の四問」と呼んでいます。

判断。正解のない場面でどう決めたかを聞きます。当てる質問は「マニュアルも前例もない状況で、何かを決めた経験を一つ教えてください」です。見るのは答えの正しさではなく、何が見えていて、何を根拠にし、何を捨てたかという過程です。

関係構築。当てる質問は「一度こじれた相手と、関係を立て直した経験はありますか」です。謝り方の巧拙ではなく、相手の事情をどこまで具体的に語れるかを見ます。相手が見えている人は、細部を語れます。

言語化。当てる質問は「いまの仕事を新人に教えるなら、最初の一週間で何を教えますか」です。自分の仕事を構造として説明できる人は、AIへの指示も、外注先への依頼も、部下への引き継ぎも上手です。

学習速度。当てる質問は「この一年で、誰にも頼まれずに身につけたことは何ですか」です。中身の高級さは問いません。始めてから使えるようになるまでの期間と、その間の工夫を聞きます。

「若手には判断の経験がまだない」と感じるかもしれません。その場合は、四問の重心を言語化と学習速度に寄せます。アルバイトでも学業でも、自分で決めて、身につけて、人に説明した経験は誰にでもあります。題材の大小ではなく、過程の解像度を見るのです。

四問に通底する物差しは一つです。「何ができるか」ではなく、「何を任せられて、何を教えれば伸びるか」です。作業スキルは入社後に教えられます。判断の型や学ぶ習慣を教えるには、その何倍もの時間がかかります。教えにくいものを採用の場で確かめ、教えやすいものは入社後に回します。それが順序です。

「作業スキルはもう見なくてよい」という結論ではありません

当然の反論があります。作業の経験も実務の土台ではないか、というものです。そのとおりです。作業スキルには最低限の水準、いわば床が要ります。本稿の主張は、床の確認を天井の評価と混同しない、ということに尽きます。床は短い実技で確かめられます。問題は、床の高さで候補者を序列化し、それを「即戦力」と呼んでしまう習慣のほうです。

「判断力など面接で測れない」という反論もあるでしょう。確かに、将来の判断そのものは測れません。しかし過去の判断の過程は聞けます。導入の現場で繰り返し見てきたのは、作業の実演は練習で盛れるのに、判断の再現は盛りにくい、という差です。飾った答えは、細部を掘ると続かなくなります。

なお、オーターの論文は労働市場全体の長い傾向を扱ったもので、個々の会社の採用の成否まで保証するものではありません。作業の床が高いままの職種も残ります。ただし方向は明瞭です。作業の値段は下がり続け、それを補完する側の値段は下がっていません。

まず三十分で、面接評価シートの一項目を差し替えます

第一歩は小さくて構いません。経営者と採用担当が三十分、いまの面接評価シートを机に置きます。やることは三つです。項目のうち、AIが既に及第点を出せる作業スキルに印を付けます。印の付いた項目から一つ選び、「残る側の四問」のどれかに差し替えます。差し替えた質問には、何が聞けたら合格かの目安を一行添えます。次の面接から、そのまま使えます。

評価シートがない会社は、むしろ好機です。四問をそのまま並べた一枚を作れば、面接官ごとの印象のばらつきを減らす効果も同時に得られます。

採用基準は、求人票の飾りではありません。会社がどの能力に長期の固定費を張るかという、投資判断そのものです。AIが安くする側に張るのをやめ、AIが高める側に張り直してください。次の面接が、その最初の機会になります。

(出典注:David H. Autor「Why Are There Still So Many Jobs? The History and Future of Workplace Automation」(Journal of Economic Perspectives, 2015年)。二百年の機械化を経ても仕事がなくならない理由を、自動化は職業を丸ごとではなくタスク単位で置き換え、人に残るタスクを補完してその価値を高めるためだ、と整理した論文です。機械による代替が誇張され、補完の効果が見落とされがちだという同論文の指摘が、本稿の背骨になっています。)